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村島帰之の労働運動昔ばなし(第16回)

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「エンジェル・トランペット」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.or.jp/40223/)



村島帰之の労働運動昔ばなし(16)

『労働研究』(第137号)1959年7月号連載分


             第二回 川崎造船所と松方社長
          
(前回に続く)          

                 松方社長の挿話いろいろ


 十年の争議中、ロンドンの松方氏から、留守居重役へ、訓令の電報が入った。電文は「頭脳を冷静に」というのだった。ところがうろたえ者の重役が、「心(ハート)を冷酷(コールド)に」と誤読して、その通り実践したというのだ。もちろんこれは茶目ッ子の新聞記者が流したデマに違いないが、この場合、ヘッドよりも、ハートよりも、腹が必要だったのである。

 松方氏は太ッ腹な男だった。と同時に温情の持主でもあった。

 ある正月の仕事始めの日、松方社長が工場を巡視して、工員たちとおめでとうを言い交していたが、ある機械の前に来かかると、彼は急に不機嫌な顔をして立ち止まった。機械の上に酒徳利がのせられていたからだった。

随行の労務課長は「一体誰がこんなマネをしたのか」と問いただした。一人の年老いた職工が「わたしです」と答えた。課長は正月とはいえ「工場内で酒を飲むとは何事だ」と強く叱ったが、老職工は「わたしは飲みません」と平気な顔である。課長は社長の前もあるので真っ赤になって「では一体誰に飲ましたんだ」と詰問した。すると老職工は答えた「わしは機械がかわいいのです。それで機械にも正月の祝いをしてやりたいと思って、うちから一合もって来てやったんです」

 その答えは誰よりも松方社長を喜ばせた。そしてあとから「機械への酒肴料」として金一封が社長から老職工へ贈られた。

或いはこうしたことは「浪花節調」というのだろうが、松方社長はこんなことが好きだったのである。

大正八年のサボの際、職工側の要求が、上に厚く下に薄いといって、これを修正して要求以上の回答を出したり、要求事項になかった八時間労働制を、たとえ名目だけだったにしろ、全国にさきがけて実施したりして争議団員をびっくりさせたのも、松方氏の親分らしい温情でもあり、また彼の負けじ魂のあらわれでもある。

 松方社長はまた一方、細心な神経の持主でもあった。工場内でのムダをなくするように注意して、工場巡視の際、金具や釘が落ちているとすぐ拾い上げた。

 或る日、こんなことがあった。例のごとく工場を歩いていると一本の大きい釘が落ちていた。そこで「またこんなところに……」といって拾いあげた瞬間、松方社長はあわてて手をふってその釘を投げすてた。いたずら小憎が社長の巡視と知って、その通路にあらかじめ釘を火で焼いて捨てておいたのだ。

 しかし松方社長が本とうに手を焼いたのはこんなことではなく、大正八年夏、傘下一万六千の工員が日本最初のサボタージュをやった時だった。その際彼は「サボとは卑怯な、やるならなぜ男らしくストをやらん」と叱った。薩摩隼人らしい男らしさではあった。

工員たちは彼の忠告に従って翌々十年にはつい大罷業を敢行した。ロンドンに居た松方は「それでこそ男らしいぞ」とほめたかどうか。


               松方氏に助けられた話


 男らしいといえば、松方氏の豪放な一面を物語る一挿話がある。それはわたしがサボタージュ当時、警察に拘引されるところを、松方社長に助けられたという、わたしにとってはあまり自慢にならないが、しかし松方氏の太ツ腹を物語るにはうってつけの話なので書き添える。

 大正八年のサボ当時の兵庫県警察部長は山岡国利といって薩摩ッぽうだった。彼は薩摩出身の先輩松方氏に忠勤をぬきんずるはこの時とばかり、さっそく松方氏へ電話をした。

 「職工たちのサボでさぞお困りでごわしょう。ついては主謀の労働組合幹部と、それを外部から煽動しちょる新聞記者をひっくくって差し上げますから御心配のないように……」

 山岡部長は松方氏が喜んで「ぜひお頼みします」と答えるに違いないと予想していたが、返事は意外だった。

 「おいどんがとこの職工の事は、おいどんが始末する。かまわじとおくいやい!」

 この松方社長の一声で、二年後のストの場合とは違って一人の犠牲者も出さずに、サボは予期以上の成果を収めて解決した。サボがすんだ後、山岡部長は当時のことを正直にわたしに話してこうつけ加えた。

 「実はネ、君を煽動者としてひっくくる手筈にしていたのだが、松方さんのおかげで君は助けられたんだ。あまり松方さんを悪く書くとバチが当るよ」


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