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村島帰之の労働運動昔ばなし(第32回)

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「吉田源治郎・幸夫妻:賀川豊彦の書」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.co.jp/40223/)



村島帰之の労働運動昔ばなし(32

『労働研究』(第141号)1959年11月号連載分


                第四回 友愛会長と友愛婆さん

      (前回の続き)

                  おめがけ横丁に間借り


 神戸の友愛会の雰囲気は常に和風堂に満つといったあたたかさがあった。わたしは大正七年から八年へかけて神戸在勤中は、ほとんど毎日のように、夕方、新聞社の仕事が終ると、新開地の盛り場をあてもなく歩きまわることと、新開地の裏側、湊町四丁目の横丁にあった友愛会の事務所へ行ってトグロをまくことを忘れなかった。

 友愛会の事務所といっても独立した家屋ではなく、二階借りの身の上だった。その上、この横町の戸数約十戸の居住者約二十名のうち、男はわずか六名(その中には友愛会の書記亀徳正臣氏も含まれていた)あとの十余名はみな女だった。それも、あだっぽい美人揃い。

 此処までいえばハハーンと合点されたと思うが、この横丁は俗称「おめかけ横丁」ともいわれる第二号住宅地域だったのである。そのおめがけ横丁のまん中に、労働組合の事務所が二階借りしているのだから天下の奇観といわねばなるまい。

 そして毎夜十時頃ともなると、ほかは森閑となるが、この横丁の友愛会の事務所だけは、残業を終え、家で一ぱいやってから出かけて来る組合員たちでまだ談論風発のさい中である。

 おめかけ横丁の治安をみだすものとして抗議が出そうな具合だったが、皮肉なことに、事務所の真向いは、人もあろうに、川崎造船所のカンカン虫(錆落しの少年工)の人入れをするボスの第二号だったので、気がひけるのか、出入りにも友愛会の人々の目をさけるようにしているのが見られた。


                友愛婆さんは女友愛会長


 ところが、事務所の階下にも一人の女性が住まっていて、刑事が「変ったことはありませんか」と聞きに行けば、彼女は二階へ取次ぐまでもなく「何もありません」と屑屋のように追っ払うすべも心得て居り、また始めて訪ねて来た労働者には、幹部になったようなつもりで、労働組合論の一くさりも語りきかせて、会則や入会申込書を持たせて帰す。鈴木会長が事務所に泊る時などは、まるで貴人のもてなしである。

 彼女は幹部のゆかりの人でも何でもない。実は或る質屋さんの第二号なのである。言いかえると、友愛会は、おめかけ横丁の、そのまた妾宅の二階に間借りの身分だったのであるが、階下の女性は、本務を忘れて友愛会のために忠実な玄関番・接待係をつとめてくれた。

 もっともこれがうら若い美人だったら、年少労働組合員の刺戟ともなったろうが、あいにく年は既に四十を越したうばざくらでお世辞にも美人とはいえない。友愛会の人々は彼女の本名の黒瀬俊子を知らないでも「友愛婆さん」で通っていた。

 友愛婆さんは九州は熊本の国憲党員の家に生れた男優りで、友愛会の面々と、労働運動の話もすれば、また家庭の紛議などを持ちこまれると、夫婦げんかの仲裁もした。かと思うと、乱暴者や浪費家は、とっつかまえて諄々と説教することもあった。それで、若い組合員らは「労働紛議なら友愛会へ! 家庭紛議なら友愛婆さんへ!」といって、彼女を「女友愛会長」に擬する茶目さんも居た。

 友愛婆さんはその後、パトロンの質屋のおやじとも別れた、というよりはすてられた。その原因は、彼女がかんじんのおやじヘのサービスを忘れて、友愛会に肩入れしすぎるからというのだった。

 久留氏らは婆さんの組合員を凌ぐPRや巧妙な刑事撃退の手腕を高く評価し、その後は事務所の台所を手伝わせていたが、不幸にして胸を病み、久留氏の世話で高砂の鐘紡病院に入院療養中、元気な婆さんも病気には勝てず、あの世へ旅立ってしまった。大正中期の神戸の労働運動の一挿話ではある。
            

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