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村島帰之の労働運動昔ばなし(第40回)

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「故郷の風景」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.co.jp/40223/)



村島帰之の労働運動昔ばなし(40

『労働研究』(第143号)1960年1月号連載分


               第五回 神戸新川における賀川豊彦

      (前回に続く)
      
                   伝道所の前は私娼群


 わたしはその頃はまだ賀川夫妻の働きの詳細について十分知らなかった。「死線を越えて」もまだ出ていなかったし、もちろんその後の自伝的小説も出ていなかった頃だから、「貧民心理の研究」の中に現われる事例によってわずかにそれを知るのみであった。従ってわたしの新川部落の賀川長屋初訪問記は、ただ表面的なスケッチだけで終ったのもやむを得ない。

 それから暫らくして大正七年九月、わたしは神戸勤務となり、賀川氏とは労働運動の同志として交渉が深まって行き、わたしの新川通いも頻繁となった。それと同時に、毎日新聞紙上に賀川氏の過去、現在の活動が頻々とのり出した。わたしはこの人を高く評価して、たえず紙上に紹介したからである。わたしが賀川氏をあまりに知名人扱いするというので、社内の上役から非難をうけたのもこの頃であった。

 賀川氏の貧民伝道の事は此処では触れないことにするが、始めは「救霊団」の名で開始されだがその後「イエス団」と改められた。わたしが労動運動の用事や新聞の取材のことで、しげしげと氏を訪れるようになったのは「イエス団」になってからで、イエス団の事務所は前記の北本町の長屋の路地を出た表通り、吾妻通五丁目にあった。

 北本町の長屋は専ら寄食者が住まい、吾妻通りの二階家の階下の四坪ほどの土間が説教所になって居り、奥は診療所、隅は狭い食堂。階上の通路に面した側は賀川氏の書斎、事務所、応接間(一時は此処が診療所になって馬島僴氏が診療に当っていたこともあった)、奥の二間は賀川氏夫妻や奉仕青年たち(この人たちの中には、現在協同組合運動の大立て者となっている木立義道氏や牧師深田種嗣氏などもいた)が住まっていたが、氏の書斎の天井近くの棚にズラリと並んいたマルクスの資本論(原書)が印象に残っている。

 わたしたちが訪れて、階下の土間の隅にしつらえられた粗末な梯子段の下から氏の名を呼ぶと「ああ、居ますよ。おあがり下さい」と階上から賀川氏が顔を出した。何のことはない。場末の三等下宿であった。

 この事務所の前の吾妻通りは立淫売(最下級のパンパン)のかせぎ場だった。わたしが夜分、賀川氏を訪問すると、きまったように彼女たちにつかまった。その時「賀川先生のとこへ行くんだよ」というと「ナーンヤ、先生とこのお客さんかいな」といってすぐ解放してくれた。

 わたしは事務所の二階の戸の隙間から彼女たちの営業ぶりを小一時間にわたってあかず観察していて、春子夫人から「村島さんは何て物好きなんでしょう」と笑われたこともあった。

 お客の中には外国の船員もいたが彼女たちにはあまり歓迎されないらしく、売春料を値切る者に対しては「アホ!」といって罵った。女をこう気丈にさせるのは遠巻きに彼女たちのヒモ(その多くは良人?である)が目を光らせていてくれるからである。賀川氏はこれらの私娼たちのためにも何くれとなく世話をやいてやった。


                  貧民窟十年記念会

 大正八年夏、賀川氏が葺合新川の伝道を始めてから十年になるというので(住み込んだのは十二月だが、伝道はその前から始めていた)、「賀川豊彦氏貧民窟十年記念会」がわたしたちの発起で神戸山手の海運倶楽部で開かれた。恩師のマヤス博士を始め仲間の牧師・官吏・社会事業家――ヒゲの送別会をした遊佐敏彦氏もいた――など十数名が集まって、氏を慰め励ました。この記念会を機会に、わたしは毎日新聞に「貧民窟十年」と題して新川部落での賀川氏の驚異的な働きを十回ぐらいにわたって連載し、さらにこれか引き伸して当時大阪で発行されていた「慈善新報」に戸のない便所だの、ミカン箱の赤ン坊の葬式だのの写真を入れて続き物としてのせた。これらは多分まとまって賀川氏の人と事業を紹介した最初のものであったろう。

 なおこの記念会の当夜の写真が後に沢田二郎ら新国劇一座が「死線を越えて」上演の際、登場入物の一人ウィリアムス博士――マヤス博士のこと――の顔作りの参考に使われた。わたしはある夜、道頓堀の某座の楽屋に沢田を訪ねて行くと、傍らにいた久松喜世子氏が「あなたのうつっている写真が来ていますのよ」といって示されたのがその記念写真だった。わたしは賀川氏やマヤス博士と並んで元気な顔でうつっていたが今は手元にないのが惜しい。                          

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