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村島帰之の労働運動昔ばなし(第47回)

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「ベランダのスズメ」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.co.jp/40223/)



村島帰之の労働運動昔ばなし(47

『労働研究』(第143号)1960年2月号連載分

  第六回 大正6年の三菱争議
      ―主役を演じた3人の基督者

  
  (前回に続く)
      
               技師そこのけの造機の虫


 木村は神戸川崎造船所造船部造機工場長、大正六、七年頃の彼は月収約三百円、官吏ならば三級の知事という処、カーキ色の垢付いた工場着を着、頭に古色蒼然たる麦藁帽子を被っている彼が、夕五時工場の笛を聞いて家に戻れば、ソコには長女を頭に五人の子女が父の帰りを待っていた。彼は子らに取巻かれながら打寛いで葉巻煙草を賞味するのが唯一の道楽であった。

 明治二十年、木村は十七歳で横須賀造船所の見習職工となったのが工場生活の振出しで横須賀では日本最終の木造軍艦武蔵および日本最初の鋼鉄軍艦愛宕の建造に従事し、次で各地を渡り歩いて二十八歳の春、初めて職工長となり三池炭坑に入った。今問題となっている三池の万田炭坑の巻きあげ機械やポンプは彼の据付けたものであった。

 日露役当時には佐世保にいて、三笠艦引揚の際には一部の職長として主としてその得意のポンプ方に廻り、引揚成功後は作業振り抜群とあって特に一等賞をもらった。神戸へ来て川崎へ入ったのは明治三十九年。学理の薀奥を極めていたわけではないが、多年の経験    と綿密なる研究の結果、種々の機械の発明をした。

 彼は二個の専売特許を持っていた。その一つはスチアリング、テレモーターと言って、船の舵取装置に関する発明、今一つはテレグラフ・テレモーターで従来、船の前進後進を機関部へ通ずるために専ら鉄の棒や鎖を使っていたのを不完全だとして、グリズリンおよび水の混合液体を管に通じ、その化学的作用に作り完全に前部後部の連絡をとることに改めた。グリスリンを使用したのは冷気に会っても冷却しないためである。

 彼はまた圧搾空気鉄槌に一大改良を加えた。造船の鋲付に使用する鉄槌(俗にいう鉄砲)の内部の装置を改め、従来真空作用でやっていたのを固形油を用いてやることとし、四十八時間油をささなくてもよいようにし、槌の長さを改めて従来に比しその修繕回数や機械の燃焼を少くして打つ数を増すことの出来るようにした。大正七年夏川崎が鋲打の驚くべき記録を公表することができたのも、九千五百噸の来福丸の建造日数が世界の記録を破ったのも、間接には彼に侯つ処が多かったわけである。

 彼はまたスチーム・ハンマーのヴァルブその他を根本的に改良して、川崎をしてその石炭の消費量を一日五十斤の節約をさせた。

 なお鍛冶工場では伊木工場長その他の考案によってスタンピング(型)を多く利用するようになった結果、その工費を節約することとなり、二、三年前まで鍛冶工場の仕事が徹夜業を必要としていたのが、それ以来は徹夜をせずとも問に合うようになった。

 彼は技師のように学理は知らないが、その経験から技師でも至難とする仕事を易々と仕上げて技師を驚かすことが屡々であった。嘗で軍艦榛名建造の時、英国から二吋もある鉄を曲げるベンヂング・ローラーを購入したが、余り巨大なので技師達はその組立が出来るかどうかを危んだが、彼は十人の人夫を督してまたたく間にやり上げてしまったこともあった。

 木村の自慢話は若干割引を要したが、聞いていで楽しいものがあった。しかし彼の洋行赤毛布ものがたりはさらにおもしろい。それはいささかY談がかってもいるからである。

 木村が川崎造船所から派遣され、ロンドンに滞在中のはなしだ。ある夜、外人の家庭の音楽会によばれた。本村はもちろん音楽の素養もないので、ただ美しい金髪美人が朱唇をほころばせて歌うのや、白魚のような指がピアノのキーからキーヘ稲妻のように走るのに見恍れていた。ややあって、その家の娘さんから「ミストル・木村、日本の歌を唄ってきかして下さいな是非」とせがまれて、彼は機械のタイヤーが外れた時のようにびっくり仰天した。

 彼は歌らしい歌を一つも知らなかった。彼は今さらのように、都々逸の一つ位は教わっておけばよかったと後悔した。しかしそれはその場の間に合わない。令嬢の要求は性急である。彼は致し方なしにピアノの前に立たされ、そして唄い出した。勿論、外人にはその歌の何たるやがわかるはずはない。歌い終ると、やんやという拍手だ。

 彼は真赤になって椅子にかえり、俯向いたまましばらくは顔もあげえなかった。彼の唄った歌とは「もしもしお竹さん」というわいせつな歌であったからだ。
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