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連載:賀川豊彦の著作ー序文など(第2回)

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「新春登山<高取山>」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.co.jp/40223/)



  賀川豊彦の著作ー序文など

  わが蔵書棚より刊行順に並べる

       第2回


           基督傳論争史
           大正2年12月15日 福音舎書店 353頁 

 前回の『預言者エレミヤ』が、芝ハルと結婚して最初の著作であったことは前に触れたとおりですが、大正2年のこの年に、最初の学術的大著『基督傳論争史』を上梓しています。神戸神学校は大正元年に卒業し、結婚前に「伝道師」の試験に合格していた賀川ですが、「葺合新川」での4年ほどの生活の中で、このような大作をよくもまあ書き下ろしたものだと、驚くばかりです。

 前作『預言者エレミヤ』は「ローガン先生」に捧げられましたが、本書の扉には「マヤス博士に捧ぐ」と記されています。本書は背表紙にも最初の標題紙にも「編著」とあるように、Schweitzer と Sanday の先行研究を彼が抄訳し、本書の後半に「日本に於ける基督傳の歴史」を書き下ろしました。

 手元にあるものは黒い上製本の初版ですが、カバー表紙や箱はありません。最初からなかったのかもしれません。本書の巻末に既刊の2冊の本ー『友情』と『預言者エレミヤ』ーの広告があります。次に取り上げる『貧民心理の研究』の第9版(大正11年)を見ると、本書『基督傳論争史』はそのとき「再版」されているようです。

                 序

 無学と貧乏と病気と繁忙の中に此の書が出来た。

 元来私が論争史を書くというのは、論争そのものに趣味を持っているからである。人間の無知なる、網に入った魚の様に、喘ぎ悶え、それでも無知の網を喰い破って、自由の大海に浮かぼうとする、その殊勝さ!

 私はその努力と争闘に言い知れぬ慰安を感じるのである。此の趣味がある計りで、私は貧民窟の強き刺激からよう逃げない。基督傳の研究圏は、思想界の一個の貧民窟である。私はまたそこへ引っ越して、同じ意味でその強烈な刺激に、快楽のありったけを貪りたいのである。

 哲学は元来人格の産物である。そして基督は人格のプリズムである。私は傾向の哲学的研究、或いは哲学史そのものの研究ほど好きなものは無い。しかし私は、今日の散文的な哲学史に少なからず飽き足らず思うている。今日の哲学史には生命がない。オイッケンもまだ駄目だ。

 哲学史というものは、宇宙の「創造的分出」の一現象で、哲学者そのものの生理、病理、心理、芸術、道徳より、そのパンから糞尿まで包含すべき性質のものである。

 しかしこれは容易の事業ではない。二千年の哲学史を書くに、また二千年を要す。ところが幸いにも、ここに「基督」というプリズムがある。凡ての哲学はこれを通過すると共に、不思議なまた簡単な生活史を形造する。そしてこの特殊な「生活史」には、レッキーの書かんとする道徳史も、ヘーゲルの現さんとする理念そのものの体現も、テーンの文学史的のものも、何もかも凡て現れてくる。

 それで、私は長年シュワイチェルの「ライマラスよりウレーデまで」の出るズット前より、こういう意味での基督傳論争史を書いてみたいと思っていた。しかし無学と繁忙と貧乏は、私にそれを許してくれずに、年月が経って私はシュワイチェルを手にすることとなった。

 私はシュワイチェルと彼の事業に、多大の趣味と同情を持っている。殊に彼が引き起こした最近の終末論の論争に関しては、ひとしおの興味を感じているものである。

 私はこの書を綴るにあたって、言い知れぬ歓喜を覚えた。私はこの書を、自らの将来の研究の便にしようと書いたと考えている。しかしそれがまた、世の読者を益するならば更に幸いなことである。

 私はこの書を書いている中に、一層の信仰を持って、神自身の中に生き、猶多くの生霊を基督と基督の日のために導こうと決心したことは事実である。

 終わりに、私は貴重なる書籍を貸与せられ、種々なる便利を与えられた吉崎彦一氏、加藤直士氏、大賀寿吉氏の諸氏に深く感謝し、猶世の博学なる諸兄姉に、不備なる点を批評また指導せられんことを希望する次第である。

  1913年11月10日
                    編  著  者

                     神戸貧民窟にて
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