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連載:賀川豊彦の著作ー序文など(第3回)

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「柳原のえべっさん」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.co.jp/40223/)



   賀川豊彦の著作ー序文など

  わが蔵書棚より刊行順に並べる

           第3回
  

        貧民心理の研究

          大正4年11月15日 警醒社書店 654頁

 賀川は大正3(1914)年8月には、米国プリンストン大学並びにプリンストン神学校入学のため、神戸を離れます。留学のための資金を獲得するために、彼は妻ハルの手助けを受けながら、この大著『貧民心理の研究』の原稿を仕上げる努力を重ねます。しかし、出発前には出版は間に合わず、本書は、留学中の大正4(1915)年11月に漸く日の目を見ます。

 賀川の留学中にもう1冊、彼の翻訳本の第1号と思われる、オリバーの著書『PREPARATION FOR TEACHING』が、『日曜学校教授法』として、大正4(1915)年3月、日本基督教興文協会より出版しています。これは留学前マヤス博士から、これを翻訳すれば50円出せるという話があり、賀川が訳文を口述して、ハル夫人が筆記し、2ヶ月かかって完成させたということも知られています。

 『貧民心理の研究』は、挟み込みの資料を除いても本文が654頁にも及ぶもので、よく知られるように、当時新進気鋭の社会学者・米田庄太郎の「序文」が入り、巻頭には貴重な写真も収められています。
では、ここに賀川の「自序」を書き写してみます。



             自 序

 私はこの書を一生懸命になって書きました。しかしこの書は私にとっては一論文の一小部分にしかなっておりませぬ。「宇宙悪」の問題は永らく私の頭を悩まして、私は数年来唯そのことばかり考えております。そのうちにも貧苦と精神の衝突は殊に私の注意を惹いたものですから、私はその材料を集めることになりました。即ちそれがこの書であります。

 で、私から見ればこの書は「宇宙悪」論の数頁―社会苦の方向が少しわかった位にしかなっておらないのであります。だから、私はこの書の中に何者をも解決しておりませぬ。また自白しますが、私は立派な心理学者でもなし又経済学者でもないので、善い材料も十分集め得なかったのであります。で、専門的にみれば恥ずかしいようなところが沢山あると思います。しかし唯私の許しておりますのは、私でなければ得られないと思っている材料が得られたかと思うことであります。―それも間違っているかも知れぬが。

 私はこの書を書き終わるとすぐ行李を纏めて北米合衆国に遊学に出かけて来ました。そして日本製の眼で貧民心理を研究しております。そして大体において私の研究が間違っておらぬということを認めているのであります。アメリカは大きい国であります。貧乏人でもゆったりとしている。子供が社会主義の辻演説をしても善い国であります。或る都会の外は殆ど貧民窟をみることができない国であります。それで一面からいうならば、貧民心理は新しい国では研究できないということを私は発見したのであります。また、なんでも昨年アメリカで印刷された図書の中で、社会問題の本が最も多いそうでありますけれども、よく調べてみますと、「貧民心理」の問題に関しては全く一冊もないのであります。それで、私は、これはどうしても英国へ行かなければ駄目だと諦めております。

 それはとにかく、新大陸から見れば、いくら紐育が世界生活難の本場だと人がいっても、日本を初め暗い支那印度のことを考えますならば、とても話にならぬ。日本の貧民は「飢えたる貧民」であります。こちらの貧民は飢えてはおらず渇いた位のところでありましょう。1914年―5年の霜枯期は、世界の大戦のために大西洋岸の諸市いずれも、前年に倍する失業者を出したのであります。しかし、私はその救済法の完備しているのと、法律の寛大なのに驚いたのであります。たとえば、紐育市の如き、12月早々市長が知名の実業家、慈善家、社会学者、労働党首領よりなる70人の委員を任命して、失業者救済策を講じたのであります。そしてその結果、委員の一人である電話会社社長は、電線の修理を繰り上げてこの冬期にするということにし、その他の諸会社にても同様に仕事をわざとつくり、それで失業者の多数は助かるということになったのであります。

 これは一例であるが、この国では人口15・6万の都市で、貧民窟というものを探し当てることが誠に困難である。フィラデルフィア市などの大きな都市でも、貧民窟というべきものはもう今日では発見できないほどに改善され、またその区の死亡率のごときは、日本の貧民窟の三分の一位に減じさせているのであります。しからば、貧民は無いかといえば決してそうではない。貧民の標準が違って存在することになっているのであります。日本では月給18円をとる巡査くらいが貧民であろうが、紐育は5人家族で1年850弗以下の収入のものは貧民ということになっているそうであります。つまり日本の奏任官位いの収入あるものも皆貧民ということであります。紐育では貧民の家族で1ヶ月20弗位い払っておるものは沢山ある。その代わり月々132円(66弗)を恵与されている貧民もある。紐育の娼妓で日本のように貧困で身を売るというようなものは多くはない。しかし多くは贅沢につり上げられたために娼妓になっている。したがって、貧民心理もよほど違ってくるようなものである。

 しかし「人情は東西一つ」で、生活難が殖えると妻を棄てる(費府では1914年4万件からあったそうだ)その棄てるのが、金の話からだというのだから、私が神戸の貧民窟で見たものと少しも変わらない。しかし、「引越しの心理」「夜逃げの心理」はアメリカではまだ研究されておらぬらしいから詳しいことをいうことはできませぬが、これから研究するにしても、私は大体この書で述べた順序で研究すれば善いことと思っております。けれどもアメリカに来て私の益したことは、すでに英語では珍しい本が出来ているということを知ったことであります。「賭博史」であるとか「英国貧民発生史」であるとかは、私が日本で得たいと思って得られなかったものである。それがこの地では得られる。で、これらの不足な点はまた日本へ帰ったあと補修にでもしたいと思っております。

 今度の戦争は悲惨である。また多くの貧民を製造することであろう。そしてまた貧困が精神を支配するのでしょう。そして貧民心理の研究は更に新しくせられなければならないでしょう。ヨブは貧民の問題について叫んで「神はこの怪事を認め給わず」と申しましたが一体、カイザルの神様も、人間も、今、何をしているのでありましょう?
              プリンストンにて筆者
                  1915年1月6日



 なお、本書は大正4年に出版されて以後、高価な著書にもかかわらず読書界に受け入れられ、大正11年までに9版を重ねています。その第9版の奥付とその時の広告をみると、すぐに追って取り上げる賀川の大著『精神運動と社会運動』は大正11年のこの時点で第7版を、そして前回取り上げた『基督傳論争史』は「再版」が出回っていることがわかります。

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