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連載:賀川豊彦の著作ー序文など(第4回)

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「高取山・新探訪」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.co.jp/40223/)




    賀川豊彦の著作ー序文など

    わが蔵書棚より刊行順に並べる

               第4回
  
           精神運動と社会運動

           大正8年6月5日  警醒社書店 719頁

 大正3年8月から大正6年5月まで、米国留学のために神戸を離れていた賀川は、武内勝たちの待つ神戸・新川に再び戻ってきます。7月には、横浜の共立女子神学校で学んでいたハルも神戸に帰り、新たな生活がスタートいたしました。そこですぐに「イエス団友愛救済所」などの働きを開始していったことは、よく知られていることです。

 労働運動への参画や大阪での購買組合共益社の創設などすすめ、大正8年12月には、親しい友人たちが「貧民窟居住満10年記念晩餐会」を開いたりしています。村島帰之の「労働運動昔ばなし」の5回目のところには「貧民窟十年記念会」として10人の名前とその時の写真が掲載されています。

 本書『精神運動と社会運動』は、前著『貧民心理の研究』を出版しておよそ4年後の大正8年6月に警醒社書店より刊行されています。賀川が米国留学から帰国後に「科学と文芸」誌や「救済研究」誌などより求められて、次々と発表したものを編集し、719頁というはじめての箱入り大判の上製版の著作が登場します。手元の原書は大正10年の第8版ですが、奥付を見ると大正8年のうちに第4版まで版を重ねています。

 本書の扉には「この書を私の貧民窟の小さき改良事業に同情さるるマヤス博士夫人、福井捨一氏、大迫武吉氏、吉田栄蔵氏に捧ぐ」と記されています。そして本書の扉には、「英国現代の貧民窟詩人メースフイルドをマクス・ビーアボアムが風刺的に画きしもの」と説明書きのあるものが収められています。


                序

 貧民窟に入ってから丁度満10年、その間に貧乏と病躯と、繁忙と社会悪と戦って、思った書物も充分よう読まず、深く宇宙悪の諸問題と人間生活の運命に考え込んだが、その一部の思想を今論文集としてここに発表する。

 私は固く信じている。私の最大傑作は、紙の上にあってはならないと。私には与えられた、貧民窟の幾多の悲惨な諸問題がある。これら愛する友人の胸のうえに画かるべき活文字こそ、私の芸術的傑作中の傑作であらねばならぬのだ。しかしこれらの傑作を私は、まだ不幸にして完成しない。それで私は紙にまで堕落する。紙にまで堕落した私は、与えられた私の生活を基礎として、他人の進んだ航路と全く異なった角度をもって突進したい。私には私の哲学がある。私の哲学はいつまでも発生的にまた傾向的に見る癖をもっている。

 それで私は多くの論文を傾向的に書いた。もちろん私はこの論文集で、私の哲学思想の全てを表白することができなかった。しかし断片的に発表した論文を見てもらえば、私の思想がどんな方向をとりつつあるかが解かると思う. 私のすべての過去の労作は、貧民窟の長屋で生まれた。それは子供の叫びと、大人の怒号と、病人の呻きを聞きつつ書いたものである。

 私は真の哲学は、今日の社会悪を除き去った後に初めて産まれるものであると信じている。すなわちすべての善の運動は一種の哲学運動であると信じ、社会運動と精神運動を一つの運動であると考えている。

 この論文集は、二三の新しく書いた論文の外は全部私が過去一年半の間に発表したものである。私はこの種類の論文で決して満足しておらない。遠からず『宇宙悪論』の一体系の中に全てを纏めたいと考えている。しかしそれが纏まるにはまだ永くかかると思うので、恥ずかしいことながら、警醒社の福永文之助氏の好意によって論文集を発表することにした。

 時代が時代だ。欧州では八百万の生霊を犠牲にして、新しい世界のために悶えている。私も来るべきその時代のために、私の思想を先ず整理せねばならぬ。

  1919年5月6日
                    著    者

                      神戸貧民窟にて

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