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連載:賀川豊彦の著作ー序文など(第106回)

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「春の山野草展」(今日のブログ「番町出合いの家」http://plaza.rakuten.co.jp/40223/)



   賀川豊彦の著作―序文など
     
      わが蔵書棚より刊行順に並べる
        
            第106回


    『小説・再建(さいこん)』

      昭和21年5月20日 大阪新聞社 164頁


 本書『小説・再建(さいこん)』は、敗戦後に出版された賀川の小説第一作です。賀川戦前戦後一貫して目指したのは「協同組合運動」による社会形成でしたが、戦前に活躍した大阪「共益社」の中心人物「間所兼次」の働きなども取り上げて著した「協同組合小説」の一冊が本書です。

 「間所兼次」に関しては、「吉田源治郎・幸の世界」で詳しく取り上げる機会がありました。(http://ameblo.jp/taiwa123/ を経て該当箇所を検索してみてください)

 小説ですので序はありませんが、ここでは間所兼次のこととと思われる箇所のひとつを取り出して置きます。この小説も、全集には入りませんでした。



      『小説 再建(さいこん)』

        新日本の殉教者


 火葬場から大谷兼次の、白骨を聖隷保養農園まで持って帰った兼次の長男一郎と、小林藤吉の二人は、汽車の時間の都合で、お骨の入った白い包みを一郎と共に酉に送り、藤吉も一緒に大阪まで引返すことになった。三十年近くも、困難な商業都市で、消費組合運動の為に闘った戦友の遣骨を抱いて列車に乗ると新しい感想が胸に湧いた。

 千載一遇の社會革命期に際して果して、協同組合が勝利を得るか如何かは日本歴史を支配するとしみじみ感じられた。資本主義は、日本を敗戦に導いた。その敗北に導いた資本主義をもう一度跋扈さすならば、日本は永遠に立ち上り得る道が無い。東海道の凡ての都會は空襲で焼け野原になつてゐる。そして、焼けずにに残つてゐる人間の心までが焼野原になつてゐる。今日、これをどうして再建するか、結局帰って来る所は大谷兼次のやうな純情な協同体意識を持つ殉教的精神の他にないと藤吉ぱ考へた。養老山脈の上に夕日が没して行く濃尾の平野は日本の敗戦を知らぬかの如く、平和な空気に包まれ、春の芽生えの下準備をしてゐた。はや、麦は鳶色の土を破って、一寸位も延び、長良川も揖斐川も、水晶のやうに澄んでゐた。「國破れて山河あり」の言葉が思ひ出されてならない。然し支那の聖人孔子は、亡國の悲哀を見た殷の子孫であり、印度の聖者釈迦の王國は彼の遊行中に滅亡した。そして、世界の聖者と崇められるユダヤの國のイエス・キリストが、ローマ帝國に滅亡させられた敗北の子であった、さう考へると、日本は、敗北によって、却って世界を澗歩する神聖なる思想を生み得る好機會に恵まれてゐることを思はざるを得なかった。

 「お父さんの遺志を継いで、君は日本の協同組合運動のために一生懸命勉強しなけりやいけないよ、日本を協同組合化するには一代や二代では出来ないんだからお互ひにしっかりやらうぜ」

 さういって、大阪駅頭で、小林藤吉は、今年十八歳の青少年大谷一郎の手を握った。
 父によく似た柔和な顔をした一郎は、目に涙を浮べて、答へた。

「必すやります、私は父の遺志を継いで、一生を協同組合運動のために捧げます。そしてこの日本を救ぴます」その言葉に小林藤吉も、貰ぴ泣きをした。       ’

 終戦後、六ヶ月経った大阪には辛うじて梅田駅前に少しばかりのでバラック店が建ったばかりで、息を吹き返す気配も無かった。その晩彼は、夜遅く、自宅に帰ったが藤吉の弟照夫と、妻の妹やす子が相変わらず、仲善くして留守番をしてゐた。久し振りに兄を迎へた照夫は、學校の話をしないで、大阪の消費組合が勢よく名方面で組織されつつあることを兄に報告した、そしてやす子も面白さうに藤吉に云った。

「私の會社にも今度職域消費組合が出来ましたのよ、此の間、高い高い鰯が入りましたわ、あんな消費組合なんか、出来たって仕方がありませんね、オホ……」
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