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賀川豊彦の畏友・武内勝氏の所蔵資料より(68)

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  連夜の夜行列車で「島根県伝道」に向う賀川 

 前回は1956年の「北米最後の旅」からの、前々回は1955年の「ブラジルの旅」からの賀川の書簡を取り上げてみた。今回は1952(昭和27)年のこれは日本国内、中国地方山陰の「島根県伝道」に向う一枚の葉書である。

 豊彦自身による世界伝道の記録は「永遠の乳房」(大正14年)「雲水遍路」(大正15年)「世界を私の家として」(昭和13年)などで報告され、国内伝道の記録も「彷徨と巡礼」(昭和8年)などの書物にして書き残されている。

 国内外での賀川の伝道の旅は、行く先々に賀川を待つ人々がいて、昼夜の講演をもいとわず、旅先ではその土地の自然や歴史に触れながら、地元の人々と親しく交流を重ねて、エッセイや歌集「銀色の泥寧」などに残している。
 勿論そこには、賀川が出向こうとしている山陰の島根や鳥取伝道の作品が綴られている。

 「彷徨と巡礼」の作品は、所謂「神の国運動」の折のものであるが、その「序」に、賀川はこんな言葉を綴っている。
 
 「恐らく私は死ぬまで、かうした彷徨に、身を委ねなければならないのであろう。労働街から農村へ、農村から労働街へ、貧民窟から震災地へ、私は、定住する処もなく、月のうちに何日かは、薬瓶と一緒に旅行を続けることであろう。(中略)冬の真夜中、停車場の待合室で、慓えながら神を瞑想する嬉しさも、聖堂に於て礼拝をする嬉しさと比べて嬉しさに変わりはない筈だ。(中略)一つの迷へる霊魂のために、山を越え、野を越え、谷を越えて彷徨しなければならぬ運命に、みづから委ねてゐるのだ。」(5頁)

 今回の島根の旅は、「松江市、島根県伝道」とあるだけで詳しい事は判らないが、賀川は松江などには何度も訪ねた場所である。

 
    *       *       *       *

島根伝道



 「速達」のこの葉書は、消印から昭和27年5月2日に東京・上北沢から投函され、「神戸市葺合区吾妻通五丁目 神戸イエス団 武内勝様」宛に翌日5月3日に着いている。
 本文は、次の通り。

   口上 来る五月五日午前九時半
   湊町着(朝九時半)(列車大和)で大阪着、その夜
   松江市、島根県伝道に向ひます。「天王
   寺」には九時十五分位につくと思ひます。
   駅でおめにかかりたいものです。
   一麦保育園、牛乳会社の相談したいものです。
                  賀川豊彦
   尼崎生駒氏の従業員植野兄は、近く豊島に療養に行き
   たいと云ふのですが、「食費」はどれだけ負担できますか?


    *      *      *      *

 賀川はこのとき64歳である。文面では、大阪に朝到着する夜行列車で東京を出発する予定になっている。到着するその日は、特に急ぎの用事として「一麦保育園」のことと、前回も触れた「協同牛乳会社」の問題についての相談事があった。

 朝9時半に着いて武内と駅で落ち合い、どの場所でか判らないが、昼のあいだに相談事を済ませておいて、その夜また夜行列車に揺られて島根に向うというのである。

 賀川と武内にとってこの当時は、前年神戸イエス団を財団法人化し、続いてこの年も神戸愛隣館を社会福祉法人へ組織変更するなど事業の組織的整備を意欲していた時であるので、二人の間の意思疎通を図ることも必要であったであろう。

 ただ、今回の書面の文言は、「駅でおめにかかり」、足元の諸課題をふたりでゆっくりと「相談したいものです」という、いつものように「伝道」に出かける賀川のうきうき感が伝わってくる「速達便」であるように感じられる。

 さて、今回の「松江市、島根県伝道」はどんな楽しみが待っていたのであろうか。

 私はまだゆっくりと「雲の柱」などに連載している黒田四郎による賀川と共にした「伝道記録」を読んではいない。貴重な記録であるので、これらは時間をかけていずれ纏めて残して置かねばならない。

   (2009年10月31日鳥飼記す。2014年4月11日補記)

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