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賀川豊彦の畏友・武内勝氏の所蔵資料より(80)


  「武内祐一所蔵アルバムB」から(3)   

 前回は「アルバムB」にある「神戸イエス団夏季林間学校」の写真と共に、「雲の柱」昭和4年9月号と昭和5年8月号の記事を取り出してみた。

 ところで、次の「雲の柱」昭和5年9月号を見ると、この夏に取り組まれた林間学校の記録が見開きで、いきいきと綴られた記録が掲載されている。このレポートは女性スタッフの文章のようである。

 それで今回は、「アルバムB」の写真ではないが、内容的には前回の続きとして、その見開きの記事を全文書き出しておく。写真は、この記事の中のもので、鮮明さに欠けているが、拡大して掲載してみる。

     *      *       *       *

瓦木村だより


          瓦 木 村 だ よ り
            神戸イエス団林間学校

 「まるで何かお伽噺にある事みたいだわ。何でも欲しいと言えば出て来る様な気がす
  るわ。これが昨日迄の屋根裏部屋なのかしら。私もあの汚いセエラだとは思へない
  位だわ。私は今、お伽噺の中に住んでるんだわ。」
  小公女の物語其の儘の夢の国が、細民街の児童の為に展開されました。
  棟割長屋は消えて、見晴るかす青田となり、むせかえる熱気は、さはやかな涼風と
  変わって、恵まれぬ子供達を育んでくれる愛の住家が、武庫川邊りに生まれました。
 
  朝は既に六時の起床合図を待たず、睡眠不足の先生達を悩ます事は烏雀の比でなく、
  身支度もそこそこに露深い鎮守の森に、朝拝及び体操をしに行きます。
  帰れば七時半、朝食、備へられた箸を取って、茶碗の縁で拍子を叩く。
 「天のおとっさん、マンマが食べたい」・・洪笑・・苦笑・・
  先生の感謝を待って取り上げる箸の運びの早さ、たちまちにお代わりお代わりが連
  発される。茶碗が飛ぶ、汁椀が走る。給仕の人々の目が廻る・・・。

  楽しい聖書の時間、毎日の学課復習は、先生に助けて戴いて、それが済めば、或は
  図書・習字・作文・自然科学の話と、其の日其の日の科目を与へられます。
  新しいクレヨンを手にした子の嬉しそうな顔! 奔放な線が無数に書き並べられる
  ・・・かくて昼、一時から三時すぎ迄は、毎日武庫川又は池へ水泳に行きます。炎
  天に、熱砂に、おしげもなく肌をさらしてたわむれる子供達! 其の黒く染まって
  行く皮膚の下に、たのもしい日本児童の血が高鳴ってゐる様な!

  家には其の頃、甘いおやつが準備されて、皆の帰りを待ちわびてゐます。ほんがり
  鼻を擽るお汁粉の匂ひ、赤い西瓜の誘惑、湯気のホカホカした薩摩芋、思ふさえ家
  路への足取りは軽い。早い。
  つくろいで一日を塵埃と汗と疲れをすっくりお湯に流す心地よさ。
 「お前これ、何て名か知ってるか?」一人がお菜を指して言ふ。
 「知ってら、カツやないか!」嬉しさうな顔が見かはされるのです。

  すき腹がおいしい食事で満たされる頃、静かな夕陽は紅の余光を西の空に残しつつ、
  六甲山の彼方に沈まうとしてゐます。名残を追ふて丘に上る、一日をさわぎ廻った
  子達もさすが心静められて、落ち着いた気持ちの中に、一日の感謝を神に捧げるの
  であります。

  夜はお話会、活動写真或は団体遊戯に打興じます。
  時計が九時をまわる頃、床の用意がされるとは言え、喜びに興奮した神経はなかな
  かに静まろうとはしません。口が動く、手が動く。そして先生の注意を受けること
  幾度、室の灯がポッチリと唯一つともし残される時には、虫の音のみしげく、それ
  にからまってかすかな寝息が感ぜられるのみです。
  昼の喧嘩も、戯れも、総てを忘れて、ひたすらに眠りをむさぼってゐるのでせう。
  ピチピチした発育期の細胞が、洪水の様に疲労を押水しながら。かくして又元気に
  翌日の活動に入るのであります。

  何と楽しい生活でせうか。
  其の中一日は甲子園に行って泳いだり、活動写真を見たりして遊びます。
  去る十七日には明石へ遠足致しました。一行百八十名余り。三宮から汽車で出発、
  明石公園で一休み、熊野先生の御話に一同稀らしいおとなしさで耳をかたむけまし
  た。中食は用意された汽車弁当に、明石市役所の御厚意で小学校を貸して戴き、ラ
  ムネ・お煎餅の饗応に興りました。
  美しい海で泳ぐ事、西瓜のうばひ合い、子供達にとって、忘れやうとして忘れられ
  ぬ嬉しさでせう。ですから「来年もね、先生!」と手にぶらさがりながら頼むので
  す。喜びの土産話、或は又いただいたお弁当をたづさえて、新川へと帰ったのが五
  時過ぎでした。

 「ぜんたい誰が私達をこんなに幸福にしてくれるのでせうか?・・訊くのはよしませ
  うよ。私知らないでゐた方が良いと思ふは。でも其の誰かに「ありがとう?」とだ
  け言いたいわ。」多くの子供達はかうした感謝を胸に抱いて、六日の生活を終わる
  時に、心から林間学校万歳を叫ぶのでした。

     *      *      *       *

 写真1
 明石公園にてお話会

写真1


 写真2
 校舎に着いた女生徒
 
写真2

     *      *      *      *
 
 昭和6年の林間学校も開かれていて、其の報告が「雲の柱」にあるので、次回もこの関連のものとして紹介しておきたい。 

  (2009年11月27日鳥飼記す。2014年5月5日補記)


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